「欠損金の繰戻し還付」「繰越控除」のどちらが有利?

 前年度に黒字だった法人が今期赤字に陥った場合、前年度に納税した法人税の還付が受けられる「欠損金の繰戻し還付」(現行は中小企業者等のみ適用)という制度がある。一方で、この欠損金は、その後9年間(2018年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金は10年)に限り所得金額から差し引くことができる「欠損金の繰越控除」がある。さて、どちらを選択したほうが有利なのか判断に迷うところだろう。

 繰戻し還付が得になる場合としては、まず、資金繰りに困っていて急いで資金が必要なケースが考えられる。繰戻し還付は、法人税がキャッシュで戻ってくるので、金利負担を伴う銀行等の借入よりも、資金繰り面では有効だ。そのほか、法人税を支払った事業年度の法人税率が高く、繰戻し還付を受ける年以降の法人税率が低くなるケースや、将来法人の黒字化が当分見込めないケースなどでは、繰戻し還付を受けたほうがよさそうだ。

 法人税率に関しては、現在、中小法人の800万円以下の所得に対する軽減税率は19%から15%に引き下げられているので、800万円以下については、軽減される法人税額は繰り越す場合のほうが少なくなっている。しかし、例えば、3月決算の企業で、昨年3月期の所得が800万円で、今年3月期に800万円の欠損金が生じ、さらに来年3月期に2000万円の所得が生じたケースを考えてみると、繰り戻すほうが一概に有利とはいえない。

 繰り戻した場合は「800万円×15%」で120万円が還付される一方、繰り越した場合は、2000万円の所得から800万円が差し引けて、800万円を超えたところの税率は23.2%だから、来年3月期に軽減できる法人税は「800万円×23.2%」で185.6万円になる。上記の例では、今までどおり繰り越したほうが有利となる。もちろん、今の状況が大幅に好転する可能性は不透明で、ほとんどの場合は、繰戻し還付を選んだほうが有利となるだろう。

 だが、先のことは誰にも予想はできないので、有利不利を一概に判断するのは難しいともいえる。なんとも判断に迷うところである。なお、還付を受けられるのは法人税だけで、地方税は還付されないことに留意したい。法人住民税は、直接キャッシュとして戻してもらえず、欠損金の繰越控除をして、将来の黒字と相殺してゆく。法人事業税は、キャッシュとして戻してもらうことも、将来の黒字と相殺することもできない。

 また、欠損金の繰戻し還付に関して、実務家は、実際に還付を受けている企業は少ないとみている。それは、この制度を適用するにあたって還付請求書を提出した場合には、税務署長が、その請求の基礎となった欠損金額その他必要事項について調査することが税法で規定されていることが一因となっている。その調査が具体的にどのようなものなのかまだよく分からなくて、適用を迷ってしまう経営者が多いとみられている。