東京商工リサーチが発表した2023年を振り返ったレポートによると、同年は「コンプライアンス」違反問題が多く話題にのぼった。6月に東証プライム上場(当時)の(株)三栄建築設計が、元代表による暴力団組員への利益供与の疑いで、東京都公安委員会から暴力団排除条例に基づく勧告を受けた。同社は当初、「(上場廃止にならないように)最善の努力をしていく」としていたが、金融機関から期限利益の喪失通知を受けて状況が一変した。
そして、自力再建が厳しくなり、(株)オープンハウスグループによる公開買付けで11月に上場廃止となった。7月には中古車販売大手の(株)ビッグモーターが、保険金不正請求問題に関する記者会見を開き、兼重宏行社長と兼重宏一副社長の辞任を発表した。ビッグモーターは会見に先立ち、特別調査委員会による調査報告書を公表したが、そのなかで板金部門での修理代金の水増しなど保険金の不正請求が多く指摘された。
9月には芸能プロダクションの(株)ジャニーズ事務所の屋台骨が根底から揺らいだ。創業者のジャニー喜多川氏による性加害問題を認め、今後、同社は被害者への補償業務に専念し、同業務の終了後は廃業する。マネジメント業務は新会社に任せることを公表した。このように、大手企業によるコンプライアンス違反の発覚と経営陣の退任が相次ぎ、取引先の対応にも注目が集まった。
東京商工リサーチが10月に実施したアンケートでも、コンプラ違反企業への対応方針について、3社に1社が「取引の打ち切りや縮小を検討する」と回答。業種別で「打切りや縮小」に言及した割合が最も高かったのは「自動車整備業」の56.0%、以下、「不動産取引業」の54.0%、「保険業」と「電気業」がそれぞれ50.0%と続く。まさに渦中の業界で、影響の波及を恐れて自社のコンプライアンス遵守を示したい企業が多かったとみられる。
企業のコンプライアンス遵守意識が高まるなか、取引先による「ガバナンス」は適時開示義務のない未上場会社でも一定の効果を上げることが期待される。上場企業では株主によるガバナンスが一定程度働くが、未上場企業に対して機能していた「デッドガバナンス」はメインバンク制の衰退とともに鳴りを潜めた。時代の移り変わりのなかで、「取引先ガバナンス」の重要性が高まっている。