帝国データバンクが発表した「上場企業の監査法人異動調査」結果によると、2021年に会計監査人の異動に関する適時開示を行った国内上場企業は219社となり、前年比で77社増加(54.2%増)した。また、異動月(予定月)を月別でみると、「6月」が最多となったが、これは3月決算の会社が多くを占めるなか、特殊要因がない場合(任期満了の場合)、各社は定時株主総会開催日を異動日とするためとみられる。
219社の監査法人の異動を事務所の規模別でみると、「大手」から「中小」への異動が92 社で最多(構成比42.0%)。以下、「中小」から「中小」が44社(同20.1%)、「大手」から「準大手」が39社(同17.8%)と続き、大手監査法人から準大手・中小監査法人への異動傾向が目立つ。大手監査法人の退任には、監査環境の変化等を理由に、監査継続年数が長期にわたることや、監査報酬増額が必要となる旨の見解を示しているケースが散見された。
219社の異動理由をみると、「監査報酬の見直し」を勘案した異動が目立ち、異動理由のなかで64.0%(前年 44.0%)と前年より20ポイント増加して6割超を占めた。事業規模拡大に伴う監査範囲の広がりを考慮した結果のほか、企業の事業規模に応じた水準を検討し、監査報酬の減額をした結果が散見される。加えて監査継続年数が長期にわたることがあわせて考慮されているケースが多い。
そのほか、「その他」に含まれるそれ以外の異動理由には「今後の会計監査が困難」(構成比7.3%)や、「関係悪化」(同3.2%)などがあり、企業と監査法人の間で見解の相違や何らかの問題が生じているケースも見られ、新しく就任した監査法人との関係や業績監査への影響などが注目される。以上のように、2021 年に監査法人の異動を発表した上場企業は、219 社と前年(142 社)を大きく上回った。
2015年の東芝の不適切会計問題をきっかけに監査の厳格化が求められ、加えてリスク情報の開示など開示情報量の拡充による監査作業負担の増加に伴い、昨今、監査費用は増加基調で推移。それに伴い、事業規模に応じて監査費用を抑えたい企業側の意向により、大手から中小規模への異動が増加した。一方で、上場企業において、コンプライアンス順守や情報開示の透明性がより強く求められるなか、監査法人が果たす役割も重要性が増している。
同調査結果は↓