「職域接種」は、新型コロナウイルスに係るワクチン接種の接種割合向上に一役買っており、地域の負担を軽減して接種の加速化を図るため賛同する企業や大学等において職域単位での接種ができる。厚生労働省によると、7月18日までに実施された職域接種の会場数は2090会場に及び、その接種回数は465万6445回に達しているが、ワクチンの出荷可能な量を超えることが見込まれるため、6月25日から、職域接種に係る新規の申請の受付を一旦休止している。
ところで、企業等が、役員、従業員及びこれらの者と同居する親族でワクチン接種を希望する者や関連会社の従業員等のほか、取引先従業員等及び接種会場の近隣住民で希望する者へ職域接種を実施した場合、ワクチン接種事業の実施主体である市町村から委託を受け、接種1回当たり2070円(税抜き)を基本として市町村から委託料を受領することになる一方、接種会場の使用料や設営費用、医師・看護師等の派遣を受けるための費用など、接種会場の準備費用が生じる。
そこで、企業が会場準備費用の負担でワクチン被接種者に所得税の課税が生じるか気になるが、結論を言えば、企業が負担した職域接種の会場準備費用に関して、役員及び従業員に給与課税する必要はなく、またこれらの者以外の被接種者についても、所得税の課税対象とはならない。というのも、ワクチン接種が予防接種法の規定に基づき市町村で実施するものとされており、被接種者が接種費用を負担することはなく、被接種者において税負担も生じていないからだ。
そして職域接種は、市町村において実施するワクチン接種事業について、市町村から委託を受けた企業等が実施する形態又は市町村から委託を受けた外部の医療機関に企業等が依頼することにより実施する形態となっており、いずれも職域接種が予防接種法の規定に基づき市町村において実施するものとされている接種であることに変わりはなく、市町村単位の接種と同様、被接種者の負担費用はないので、被接種者にワクチン接種に係る税負担が生ずることはないためだ。
なお、新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種を外部の施設を利用して実施するため、企業が、役員及び従業員で接種を受ける者に対して、勤務先又は自宅から接種会場までの交通費を支給する場合、この役員及び従業員の接種会場までの交通費については、職務命令に基づき出張する場合の「旅費」と同等と考えられるので、接種会場への交通費として相当な額であれば非課税として扱われる。