不動産所得の事業的規模判定の「5棟10室基準」とは

 アパートやマンションを賃貸して得た不動産所得では、その貸付が「事業的規模」と認められるか否かで所得税の取扱いが大きく異なってくる。事業的規模と認められれば、事業専従者給与の経費算入や65万円の青色申告特別控除が可能なほか、業務用資産の取壊し、除却など損失の全額の経費算入、賃料収入などが回収不能となった場合の貸倒損失がその年分の必要経費になる、など多くのメリットがある。

 例えば、家賃が回収不能なことが明らかとなったとき、事業的規模でない場合には、収入として計上した年の所得から、なかったものとして取り扱われるが、事業的規模であれば、その未回収家賃をその年の必要経費として計上して、所得から差し引くことができる。そこで重要なのは事業的規模とされる判断基準だが、一般的には、貸付資産の規模や賃貸料の収入状況などの要素を総合的に勘案して判断することとされている。

 だが、これでは抽象的なので実務的には、(1)独立家屋の貸付はおおむね5棟以上、(2)貸間・アパートなどは独立した室数がおおむね10室以上、という形式的な「5棟10室基準」が設けられている。物件を共有している場合は、共有物件全体で判断し、また、貸室と貸家の両方を所有している場合は貸室2室を貸家1棟として、駐車場は5台分を貸室1室にそれぞれ換算して、基準を満たせば事業的規模とされる。

 したがって、50台(10室相当)以上の駐車場業であれば事業として認められるわけだが、50台以下であっても、管理状況や関与する人員などによって事業として認められるケースもある。つまり、「5棟10室基準」はあくまでも簡便な判定方法であり、実際には実態を総合的に勘案して判断することから、この基準に満たない場合でも、税務当局と交渉する余地があるケースも少なくないようだ。

 なお、事業的規模になると、メリットだけでなく、デメリットもあることに留意したい。まず、各都道府県が課税する個人事業税の対象となり、青色申告特別控除額(65万円の控除)を差し引く前の所得から、290万円を差し引いた残額の5%が課税される。次に、事業的規模の不動産オーナーで、各種特典を受けるためには家賃収入や経費などを帳簿に記帳する必要があり、さらに、作成した帳簿は原則7年間の保存義務がある。