東京商工リサーチがこのほど発表した「賃上げに関するアンケート調査」結果(有効回答数9760社)によると、2021年春に賃上げを実施した企業(一部予定含む)は70.4%で、2016年度以降で最低だった2020年度の57.5%から12.9ポイント上昇した。しかし、官製春闘で賃上げ実施率が80%を超えたコロナ前には10ポイント届かなかった。長引くコロナ禍で不透明な先行きに慎重な企業の姿勢が見え隠れする。
規模別では、大企業の「実施率」が76.6%に対し、中小企業は69.2%と7割に届かず、7.4ポイントの差がついた。産業別でみると、「実施した」割合が最も高かったのは、「製造業」の77.1%、以下、「建設業」73.2%、「卸売業」72.2%と続く。最低は、「金融・保険業」の51.0%。規模別では、10業種のうち、農・林・漁・鉱業を除く、9産業で大企業が中小企業の実施率を上回り、企業規模の格差が鮮明に表れた。
特に、「運輸業」は大企業が76.4%に対し、中小企業は60.0%にとどまり、16.4ポイントの差がついた。一方、宿泊業や旅行業、飲食業などが含まれる「サービス業他」は、大企業の66.5%に対し、中小企業も62.7%で、差は3.8ポイントしかなかった。コロナ禍の影響が長引き業績が低迷するなかでも、人材確保のため、中小企業が賃上げを迫られている窮状が透けて見える。
実施した内容(複数回答)は、最多が「定期昇給」の83.1%、以下、「賞与(一時金)の増額」37.7%、「ベースアップ」30.3%、「新卒者の初任給の増額」10.0%の順。前年度と比べ、「定期昇給」は1.7ポイント、「ベースアップ」は0.5ポイント低下したが、「賞与(一時金)の増額」は、前年度の23.5%から14.2ポイント上昇した。業績低迷のなかで定期昇給を見送り、賞与や一時金で社員の実質収入をカバーする企業が増えた。
賃上げ率(1%区切り)は、最多は「2%以上3%未満」の27.2%、次いで、「1%以上2%未満」が20.7%。「1%未満」を含む「賃上げ率3%未満」は50.7%と、半数を占めた。規模別では、賃上げ率が「3%以上」は大企業が32.1%に対し、中小企業は51.4%。賃上げ実施は、大企業より中小企業の上げ幅が大きかった。元々、水準が低いことに加え、賃上げ後の給与水準が社員の定着と採用活動への影響が大きいことをうかがわせる。
同調査結果は↓