19年度査察で国外財産調書の不提出犯を初めて告発

 国税庁が先ごろ公表した2019年度査察白書では、今年3月までの1年間に116件を検察庁へ告発、その脱税総額は約93億円となり、統計が開始された1972年(昭和47年)以降、最少となったことが明らかになった。そのような中でも、国税当局が消費税受還付事案や無申告ほ脱事案、社会的波及効果の高い事案とともに力を入れている告発重点事案に海外に不正資金を隠す国際事案がある。

 というのも、経済社会のグローバル化の進展に伴い、個人・企業による国境を越えた経済活動が複雑・多様化するなか、海外取引を利用した悪質・巧妙な事案や海外に不正資金を隠すなどの国際的な脱税への対応が求められているためだ。そのため、国税当局の積極的な姿勢を裏付けるように、2019年度は前年度より5件多い25件を検察庁に告発しており、2年連続して告発件数は増加している。

 告発事案の中には、投資ノウハウを紹介する情報商材に関する取引などで得た多額の利益を海外の法人を利用して不正に法人税を免れた事業者に対して、外国との間で締結した租税条約に基づく情報交換制度を活用して不正取引を解明したケースがある。投資目的の情報商材のプロデュースなどを行う法人3社を主宰するAは、3社の業務に関し、請求書を偽造するなどして海外法人に対する架空支払報酬を計上し、法人税を免れていた。

 一方、日本居住者の国外財産については、2012年度税制改正において、その年の12月31日にその価額の合計額が5000万円を超える国外財産を持っている者に対して、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の3月15日までに所轄税務署長に提出することを義務付けた「国外財産調書制度」が創設され、正当な理由なしで提出をしない場合には罰則が設けられた。

 今回、家具の輸入販売仲介業者Bに対して、売上代金を他人名義の預金口座に入金するなどの方法で所得税の確定申告を一切せず多額の所得税等を免れるとともに、脱税により得た金を入金した国外預金があるにもかかわらず、国外財産調書を提出期限までに提出していなかったことから、国外財産調書制度創設後、初めてとなる国外財産調書不提出に係る罰則を適用して告発している事案が報告されている。