金融庁と日本銀行が全銀協に不渡り猶予を要請

 東京商工リサーチのレポートによると、新型コロナウイルス感染拡大とともに、企業活動への影響も深刻さを増しているため、金融庁と日本銀行は4月16日、新型コロナの影響を受けている事業者の資金繰り支援として、手形・小切手の不渡り処分を当面、猶予する特別措置を全国銀行協会に要請したという。「災害救助法」が適用された際の金融上の措置要請と同様の扱いで、2013年2月から始まった電子記録債権も対象となる。 

 これを受けて全銀協は4月17日、新型コロナの影響を受けて資金不足で不渡りとなった手形・小切手について、不渡り報告への掲載や取引停止処分を猶予するよう全国の手形交換所に通知した。具体的には、(1)支払期日を過ぎた手形・小切手であっても、取立や決済を行えるようにする、(2)資金不足により不渡りとなった手形・小切手について、不渡り報告への掲載・取引停止処分を猶予する。 

 企業は、手形や小切手の不渡りを、同一手形交換所管内で6ヵ月以内に2回起こした場合、「取引停止処分」となり、その手形交換所の加盟金融機関から2年間にわたり当座取引や貸出取引ができなくなる。手元資金が乏しい中小・零細企業にとっては、手形が一定期間使えないとなると、いわゆる「事実上の倒産」状態となり、企業の信用は著しく低下する。今回の措置は、暫定的に手形決済ができなかった場合の「不渡り」措置を先送りする。 

 今回の措置のポイントは、手形交換所内で情報共有される「不渡り報告」への掲載や取引停止処分の猶予であって、手形・小切手の所持人への支払猶予ではない。つまり、手形・小切手の所持人は、予定期日に受け取れるはずの資金が入らないことに変わりはない。苦境に陥った中小・零細企業には、今回の措置は時間を止める一時しのぎにすぎない。もう一つ、倒産を表面化させない措置が講じられている。 

 現在、倒産の約9割を法的手続きが占めるが、そのうち「破産開始決定」を一時的に先送りする動きがある。阪神・淡路大震災や東日本大震災の際にも、この措置は実施された。破産は主に自らの意思で申し立てるが、震災で資金繰りが不安定な企業の場合、取引先の第三者が破産を申し立てることも少なくなかったため、裁判所は第三者による破産申立てに対して破産開始決定を2年間先送りし、再建を目指す企業に時間的な猶予をつくった。 

 今回もすでに一部の裁判所では、申立ては受理するが、緊急性のあるもの以外は事務処理の停止を明らかにしている。これにより破産開始決定は留保される。ここで述べた2つの措置は企業倒産を回避する抜本的な策ではなく、対症療法に過ぎない。東京商工リサーチは、「新型コロナの感染拡大が終息するとき、企業の本来の生き残りが問われることを覚悟すべきだろう」との考えを示している。