法人の従業員が仕事中に事故を起こした場合などに賠償金が発生し、その賠償金を法人が負担することは少なくない。この場合の損害賠償金には、慰謝料、示談金、見舞金等の名目を問わず、他人に与えた損害を補てんするために支払う一切の金額が含まれる。この損害賠償金が法人の経費となるかどうかは、事故の業務関連性の有無と事故原因に故意又は重大な過失があったかどうかにより判定する。
まず、事故が業務に関連のないものは経費にならない。次に、業務に関連してはいるが、事故原因に故意又は重大な過失があった場合も必要経費にならない。なお、重大な過失があったかどうかについては、加害者の職業、地位、事故当時の周囲の状況、侵害した権利の内容及び取締法規の有無などの具体的事情を考慮して、加害者が本来払うべきであった注意を払ったかどうかにより判定する。
例えば、交通事故の場合であれば、無免許運転、高速度運転、酒気帯び運転、信号無視などによる事故は、特別の事情がない限り重大な過失があったとされる。このように、法人の従業員が加害者として支払った損害賠償金が経費となるのは、商品の配送や売掛金などの集金の途中など業務に関連した事故で、しかも故意又は重大な過失がない場合に支出した損害賠償金について、法人の経費処理を認め、本人の給与としないこととされている。
使用者責任の範囲は、一応、従業員の業務上の行為とされているが、かなり広範囲に解釈されており、車を無断で使用して運転していたときの事故や、故意、無免許、酒酔いなどによる事故以外は使用者に責任があるとされている。したがって、従業員が仕事中に事故を起こし、その賠償金を法人が負担した場合は、税務上も、本人に重過失がない限り、給与以外の損金処理を認めているわけだ。
一方、損害賠償金の対象となった行為などが、法人の業務遂行に関連するものであるものの、故意・重過失があったという場合には、その損害賠償金は従業員に対する債権となる。債権を放棄した場合は、本人の支払能力からみて回収不能の事情にあれば貸倒れに、そうでなければ給与として取り扱われる。また、法人の業務遂行に関連しないケースで損害賠償金を支払ったときも、同様に従業員に対する債権扱いとなる。