人手不足のなか、一部では、同族法人グループ間において、労働者派遣会社を設立し、そのグループ内の法人に対し労働者の派遣を行っている取引がある。その例としては、同族法人グループ内の会社を定年退職した社員をその労働者派遣会社で雇用し、退職前の会社に派遣して退職前と同じ職務に従事させるなど派遣された労働者にとっては、派遣される以前の勤務状況と実質的に何ら変わることがない実態のものがある。
これは、形式上は派遣だが、実質的には「出向」と同じではないかとの疑問が出てくる。しかし、税法では、労働者の派遣を受ける会社とその会社に派遣されてくる労働者の間に、雇用関係がないと認められる場合には、その労働者の派遣を受ける会社が支出する金銭は、労働派遣料となり、給与に該当しないことから、消費税の課税対象となり、その対価を支払った事業者は、仕入税額控除ができることになる。
事業者が支出する金銭が、「出向」に基づく給与負担金(消法基通5-5-10(注)の実質的に給与負担金の性格を有する経営指導料等を含む)となるか、又は「労働者派遣」に係る労働者派遣料となるかは、その労働者に対する雇用契約関係等の有無(事実関係)に基づき判定することとなるが、「出向」と「労働者派遣」との関係を整理すると以下のようになる(厚生労働省職業安定局編・労働者派遣法)。
「出向」とは、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先との間において新たに雇用契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態とされている。また、「出向」は、「移籍出向」(出向先と労働者との間に一元的な雇用関係が成立)と「在籍出向」(出向元との雇用関係を維持しつつ、出向先との間にも雇用契約関係が成立)に区分される。事業主の支出が、「出向」に基づく給与負担金であれば消費税の課税対象にならない。
一方、「労働者派遣」とは、「自己の雇用する労働者を、雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、その他人のために労働に従事させること(その他人に対しその労働者をその他人に雇用させることを約してするものを含まない)」とされている。以上のことから、「出向」と「労働者派遣」は、派遣先とその労働者との間に雇用契約関係が存在するか否かにより、明確に区分されることになる。