無償労働考慮では子育て期女性が男性を80万円上回る

 ニッセイ基礎研究所が発表したレポートは、共働き世帯でも家事・育児分担は妻側に偏る家庭が多い中で、一般労働者の有償労働(給与収入)と無償労働(家事活動の貨幣評価額)による収入を推計し、年代別に男女の違いを比較した。給与収入は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から推計し、家事活動の貨幣評価額は内閣府「2022年度『無償労働等の貨幣評価』に関する検討作業報告書」における推計値(機会費用法によるもの)を用いている。

 有償労働と無償労働による年間収入を合算すると、全体では男性573.9万円、女性567.8万円(男性より▲6.1万円)。男性は50歳代後半に向けて増える一方、女性は20歳代から30歳代にかけて増えた後、50歳代まで横ばいで推移。男女を比べると、40歳代前半までは女性が(30歳代で男性より+約80万円)、40歳代後半から50歳代までは男性が(50歳代で女性より+約50万円)、60歳代後半では再び女性のほうが約80万円多くなる。

 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という価値観が根強く残る日本では「稼ぎが少ないほうが家事や育児をすべき」との声をよく耳にする。一方で、特に子育て期の年代では家事・育児に対して強い負担を感じている女性は多い中で、給与収入に家事や育児の対価を合わせると、実は女性の収入が男性を上回る可能性があることは、男性にも女性にも何らかの気づきを与えるのではないだろうか。

 女性の活躍推進政策によって女性の労働力率も管理職比率も向上したが、固定的性別役割分担意識も変わらなければ、女性の負担は増すことになる。20・30歳代の独身者が積極的には結婚したくない理由をみると、女性では「仕事・家事・育児・介護を背負うことになるから」といった家族形成に関わる理由が男性を大幅に上回る。若い女性では現在の子育て世代の妻の負担の大きさが結婚を躊躇させる要因にもなっている。

 現在、政府では少子化対策として若い世代の所得向上や社会全体の構造や意識改革を進めている。特に「産後パパ育休」の創設や育児休業給付金の引上げなどによって、今後の男性の育休取得促進が期待される。出生率の持続的な低下は日本が喫緊に取り組むべき課題だ。家族や地域の在り方も変わる中で子育てに関わる負担感への対応は、もはや家庭内だけの課題ではなく、社会全体で対処すべき課題だ。

 同レポートの全文は

https://www.nli-research.co.jp/files/topics/76749_ext_18_0.pdf?site=nli