表題は信金中央金庫の中小企業研究所が発表した経済金融情報のレポートである。それによると、国内経済はコロナ禍から正常化しつつあり、日銀がYCC(長短金利操作)の運用を柔軟化するなど、金融緩和策の出口も視野に入ってきた。日銀は金融政策の決定において“賃金の上昇”を重視しており、中小企業を含めた賃上げの実現は金融政策が正常化に向かうためのカギを握っている。
そこでレポートは、物価高や賃上げ等のコスト高が中小企業の経営状況にどのような影響を及ぼしているのかを、中小企業の収益性、生産性、安全性に関する財務分析によって検証した。2023年9月の中小企業の景況感は、全産業の業況判断DI(短観)が+5で前期比横ばいとなった。非製造業は、経済活動の正常化で宿泊・飲食サービス等が上昇して+12に回復。一方、製造業は、部品不足の緩和で自動車等が改善したが、▲5にとどまった。
2022年度の大企業の売上高経常利益率は8.1%に達した。一方、中小企業は3.4%だが、コロナ前(2018年度)と同水準に回復している。本業の総合的な収益性を示す総資本営業利益率(ROA)をみると、中小企業は1.8%でコロナ前(2.8%)を1.0%ポイント下回る。売上高営業利益率が0.9%ポイント、総資本回転率が0.1%ポイント押し下げており、コスト高などを背景に、本業における収益力の回復の遅れが響いている。
2022年度の中小企業の1人当たり人件費は、対コロナ前比3.4%増加。労働生産性が2.0%ポイント、労働分配率が1.4%ポイント押し上げた。ただ、製造業は1人当たり人件費が同3.9%増加したが、労働生産性の寄与は▲0.2%ポイントであり、生産性の回復が遅れている。一方、非製造業は労働生産性の改善が2.6%ポイント押し上げた。また、2022年度の中小企業の労働生産性は、対コロナ前比2.0%上昇した。
労働生産性は、労働装備率と有形固定資産回転率が押上げに寄与した一方、物価高を背景に付加価値率の低下が押し下げている。付加価値率の寄与は、製造業が▲6.4%ポイント、非製造業が▲2.3%ポイントであり、製造業のほうがコスト高の影響を十分に価格転嫁できなかった影響が大きい。2022年度の企業の安全性を示す損益分岐点比率(営業純益ベース)は、中小企業が94.4%で大企業の75.1%を上回るが、バブル期の水準を下回った。
ただ、コロナ前より3.2%ポイント悪化しており、変動費率が2.8%ポイント押し上げた。特に、製造業は5.9%ポイント押し上げており、コスト高の影響で安全性が低下した。一方、1人当たり人件費は、中小企業の損益分岐点比率を2.4%ポイント押し上げたが、1人当たり売上高の押下げ効果の方が大きく、売上高人件費比率が低下して安全性の改善に寄与した。
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