不動産賃貸借におけるインボイス制度対応の注意点

 インボイス制度の開始が間近に迫った。制度が始まると、適格請求書発行事業者が発行したインボイスが必要になるが、家賃の支払いのように口座引落しになっていて請求書の発行がないような取引はどうなるのか、新たに賃貸借契約書を作成してもらう必要があるのか、疑問が生じる向きもあろう。結論を言うと、賃貸借契約書を作成してもらう必要はない。しかし、家賃の支払いも原則としてインボイスを保存しておく必要がある。

 家賃の支払いのように、すでに締結された契約書が存在する場合、インボイスとして不足している事項を記載した覚書等を契約書と一緒に保存することによりインボイスとしての要件を満たすことができる。したがって、賃貸借契約書の内容を確認し、インボイスとして不足している記載事項をオーナーからもらう必要があるが、まずはオーナーが適格請求書発行事業者になっているかどうかの確認が必要となる。

 オーナー側の立場からすれば、ほとんどが居住用のビルの1階だけを店舗として貸していたり、居住用アパートの駐車場を賃貸しているだけといった場合は、非課税売上がほとんどを占めるので、適格請求書発行事業者にならない選択をすることもある。また、適格請求書発行事業者になったとしてもオーナーによって対応方法が変わってくる場合もあるので、まずはオーナーのインボイス制度への対応方法を確認するべきだ。

 また、契約書と覚書を一緒に保存することについては、一つの書類で記載事項の全てを満たす必要はなく、複数の書類で記載事項を満たしても良いことになっている。したがって、口座引落や振込の場合など、通帳や振込明細などで取引年月日の確認がとれ、残りの必要な記載事項を契約書で確認できる状態であれば、それらを保存しておくことでインボイスとして認められる。

 なお、オーナーが適格請求書発行事業者にならないことを選択した場合、基本的には仕入税額控除ができなくなる。本年10月1日から3年間は仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から3年間は同50%の経過措置はあるものの、2029年10月1日以後、仕入税額控除はできなくなる予定だ。仕入先などの取引先と同様、適格請求書発行事業者にならないことを選択した事業者への対応を検討する必要が出てくるので要注意だ。

 そのほか、取引の都度、請求書等が交付されない取引については、取引の途中でオーナーが適格請求書発行事業者でなくなる場合も想定され、その旨の連絡がない場合にはその事実を把握することが困難となるので、必要に応じ、国税庁適格請求書発行事業者公表サイトでオーナーが適格請求書発行事業者か否かの確認が必要になる。過去に一度調べたからといって安心せずに、定期的に確認することをお勧めしたい。