“景気を映す鏡”と言われるタクシー業界。東京商工リサーチの調査では、2022年のタクシー(ハイヤー含む)業の倒産(負債1000万円以上)は、前年の2倍超の29件となり、過去10年間で最多を記録した。そのうち、約9割は従業員50人未満の中小・零細規模だった。全国ハイヤー・タクシー連合会によると、2022年12月の会員の営業収入は全国平均でコロナ禍前の2019年に比べ▲18%減少し、まだコロナ禍の影響が色濃く残る。
コロナ禍の行動制限の際には、飲食店の休業や時短営業が相次ぎ、かき入れ時の深夜帯の需要が消失し、業界は大きな打撃を受けた。利用客の減少とコロナ支援が薄れ、息切れした企業が相次いだ。ただ、客足は2022年秋から回復傾向にある。行動制限の解除でビジネスマンの利用が増え、深夜帯の利用客も戻りつつある。11月に東京23区は初乗り運賃が420円から500円に改定されたが、利用者の乗控えはなく影響は限定的という。
全国旅行支援や各国の出国規制緩和によるインバウンド復調も追い風になっている。2022年の訪日外客数(日本政府観光局)は前年比約16倍の383万1900人に回復。業界関係者は、「母国より日本は乗車料金が安いと話す外国人は多く、空港から宿泊先までの長距離利用もしばしば」と笑みをこぼす。他方、配車アプリの浸透で、タクシー利用も手軽になった。高齢者は電話予約が多いが、若年・中年層ではアプリ予約が広がっているようだ。
大手タクシー会社の日本交通(株)によると、2022年の予約のうち、アプリ経由が8割以上に達した。予約したタクシーの運転経路がリアルタイムで把握できることも安心につながる。車種が選択しやすくなったことも満足感を高める要素の一つだ。また、電子決済も浸透してきた。全タク連の「決済用端末機導入状況」によると、2022年3月末でキャッシュレス決済対応車両は非対応車両の約10倍にあたる13万3432台だった。
需要は活気を取り戻すが、その一方で供給が追い付かないケースも出ている。都内のタクシー会社は「ドライバー不足で今も総台数の1割が遊休している」と頭を抱える。「平日の朝の雨天時に利用客の予約に対応できず、ニーズの約3割を取りこぼしている」と表情を曇らせる。国土交通省によると、2020年度の全国法人タクシー事業者数は前年度比▲152社減の5828社、法人タクシー車両数は同▲4533台減の17万7367台だった。
状況は深刻だ。全タク連によると、2021年度の法人タクシーの全国乗務員数は前年度比▲6.8%減の24万1727人で、50歳以上が20万7473人と85.8%を占める。業界関係者は「彼らの退職で空いた穴を埋めないと、慢性的な供給不足に陥りかねない」と漏らしている。タクシーは、労働集約型産業で人員の確保なしでは成り立たない。タクシー業界は、労働集約型から様々な効率型産業への転換期を迎えている。
同調査結果は