主に有配偶パート女性において、自ら社会保険料を支払うことなどによる手取り収入の減少を避けるため、年収が一定額以下になるよう就業時間や日数を減らす「就業調整」を行っている人は少なくない。そしてこの事実が、我が国の人手不足をより深刻化させ、経済成長の抑制につながっている可能性があると考え、野村総合研究所は2022年からいわゆる「年収の壁」問題や「就業調整」の実態把握を目的にした調査を行っている。
今回の調査は、パートもしくはアルバイトとして働く、配偶者のいる全国の20~69歳の女性(「有配偶パート女性」)2060人を対象に実施した。調査結果によると、有配偶パート女性のうち61.5%が、「年収の壁(その金額を超えると社会保険料の負担額が増えるなどして、手取り収入の減少が生じる境目)」を意識し、自身の年収を一定額以下に抑えるために、就業時間や日数を「調整している」と回答した。
2022年9月に実施した同様の調査におけるその割合は61.9%だった。有配偶パート女性で「年収の壁」を意識し、「就業調整」を実施している割合は、2年前と大きく変わっていない。また、「就業調整」をしている有配偶パート女性に「昨年と比べて時給が上がったか」を聞いたところ、60.6%が「昨年と比べて時給が上がった」と回答した。
「就業調整」をしている有配偶パート女性で「昨年と比べて時給が上がった」とする人に、「時給上昇を理由にさらに「就業調整」をしたか」については、51.3%が「した」と回答し、23.3%が「まだしていないが、今後する予定」と回答。「就業調整」をしている有配偶パート女性で「昨年と比べて時給が上がった」とする人の7割以上(74.6%)で、時給上昇が「さらなる就業調整」につながっている様子がうかがえる。
野村総研が同調査の結果を用いて試算したところ、「就業調整」をしている有配偶パート女性のうち、時給上昇を理由に「さらなる就業調整」をする意向のある有配偶パート女性は約210万人と推計される。引き続き人手不足が深刻ななか、約210万人の労働者が、就業自体は可能であるにもかかわらず、「年収の壁」を意識して就業を抑制する事態は、早急な解消が求められる。
同調査結果は