医療費控除の対象となる医療費には該当せずとした事例

 病院へ通院するために要した自家用車のガソリン代、高速道路利用料金及び駐車場利用料金は医療費控除の対象となる医療費に該当するかどうかが争われた事例で、国税不服審判所は、これらのガソリン代等は、所得税法施行令第207条第3号に掲げる病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価とは認められないことから、所得税基本通達73-3にいう通院費に該当しないと判断して審査請求を棄却した。

 請求人は、所得税基本通達73-3《控除の対象となる医療費の範囲》(本件通達)は、所得税法施行令第207条《医療費の範囲》第1号に掲げる医師又は歯科医師による診療又は治療の対価にはそれに付随又は関連をする費用として通院費が含まれる旨を明らかにしたものであるから、本件ガソリン代等も医師等による診療等を受けるための通院費として、医療費控除の対象となる医療費に該当する旨主張。

 さらに、本件通達は、通院費が医療費に含まれる旨定めるのみで、何らその通院手段を限定しておらず、通院費であれば人的役務の提供の対価でなくとも医療費に該当する旨の公的見解の表示だ。しかるに、各通知処分は、本件通達の定めとは異なり、人的役務の提供の対価に限り通院費が医療費に該当するとの見解を前提とするもので、上記の公的見解の表示に反している。したがって、本件各通知処分に信義則に反する違法があるとも主張した。

 しかしながら裁決は、通院費は病院等へ往復するための旅費や交通費であり、医師等による診療行為・治療行為に対して支出されるものではないため、医師又は歯科医師による診療・治療の対価に通院費が含まれると解することはできない。また、本件通達にいう通院費の取扱いは、飽くまで同条第3号に掲げる病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価の解釈として許容される範囲内に限るものと解することが相当と指摘。

 本件ガソリン代等は、いずれも商品の購入の対価として支出されたもの又は設備若しくは施設等の利用の対価として支出されたものであり、人的役務の提供の対価とはいえないことから、本件通達にいう通院費に該当しないとして、本件ガソリン代等は医療費控除の対象となる医療費には該当しないとの判断を示し、更正をすべき理由がないとした本件各通知処分はいずれも適法であるとして、請求を棄却している。

(令和5年11月6日裁決)