放漫経営による倒産が急増、経営者のモラル低下も

 東京商工リサーチが発表した企業の倒産動向の分析によると、本年5月の企業倒産は約11年ぶりに1000件を超えた。物価高や人手不足などが増加の背景だが、その影に隠れ「放漫経営」が急増していると指摘している。2024年1~5月は累計190件で、過去10年間で最多を更新した。手厚い創業支援、個人保証に依存しない融資も増えたが、一部の経営者のモラル低下と無謀な経営が倒産を押し上げている。

 東京商工リサーチは、1952年に企業倒産の全国集計を開始した。その集計結果によると、5月に1000件を超えたが、月間最多は1984年5月の1965件で、増えたと言ってもまだピークの半分だ。それでもコロナ禍で裁判所の受付が難しかった2020年5月の314件と比べると約3倍に増え、倒産が身近に迫っている。同社は倒産原因(主因)を、販売不振や他社倒産の余波、過小資本など10区分で集計している。

 10通りのうちの1つに「放漫経営」がある。放漫経営は、経験不足などの「事業上の失敗」、異業種への進出失敗などの「事業外の失敗」、融通手形などの「融手操作」の3パターンに分かれる。過去10年の1~5月の放漫経営を主因とした倒産は、2016年の188件が最多だった。これまでの定説は「放漫経営の倒産は好況期に増える」だった。好調な業績で事業拡大を無計画で進めたり、余剰資金を投資で増やそうとして失敗したりだ。

 コロナ禍で放漫経営による倒産が一変。2021年同期は107件まで急減したが、これは、ゼロゼロ融資などの手厚い支援で、倒産全体が減少し放漫経営が目立たなくなったに過ぎない。しかし、支援縮小とともに放漫経営が顕在化し始めた。起業しても従業員が集まらずに事業を始められなかったり、決算書作成を怠り税金を納めていなかったり、コロナ禍に隠れていた放漫経営の姿が明るみとなり、2024年同期は過去最多の190件に達した。

 放漫経営の倒産増について「経営者保証を付けないこと」が原因の1つと分析する審査マンもいる。集計では、2023年の新設法人は過去最多の15万3405社に増えた。経営者の個人保証に依存しない融資が次第に浸透し、起業マインドを底上げしたようだが、その副作用で、モラルハザードも起きている。無計画な起業は従業員や取引先に迷惑をかける。倒産増の局面では、勢いだけの経営者は、いずれ淘汰の憂き目に遭うことを教えている。