旅館・ホテル業界が急回復の局面を迎えている。過去１年間に帝国データバンクが調査した全国の旅館・ホテル業者のうち、直近の業況が判明した863社を集計した結果、63％の企業が「増収」基調であることが分かった。「全国旅行支援」による国内観光の再始動に加え、水際対策の緩和により訪日外国人観光客の受け入れが再開した１年前の2022年10月（45％）の水準を大きく上回り、コロナ禍以降で最高を更新した。
コロナの感染状況に業績が左右され続けてきた旅館・ホテル業界は、コロナ禍当初の 2020年４月時点では増収見通しが13％、2021年同時点は５％にとどまるなど、各企業で非常に厳しい見通しを強いられてきた。しかし、2022年10月以降は新型コロナの５類移行などで水際対策が緩和・撤廃され、国内観光需要が回復に転じたほか、インバウンド（訪日外国人客）需要も急回復したことで大幅な増収を見込む企業もみられた。
2023年４月以降は、８月に３年半ぶりとなる中国人団体旅行の受け入れ解禁でインバウンドが本格的に再開したほか、出張需要の復調も加わり、稼働率・客室単価双方ともに上昇したことも旅館・ホテル各社の増収を後押しした。都道府県別にみると、「増収」基調となったホテル・旅館の割合が最も高かったのは「宮崎県」で、対象となった企業すべてが増収と回答した。
「沖縄県」も９割超で増収となったほか、愛媛県や群馬県、長野県、長崎県など６県では増収が８割を超えた。この結果、10月時点までの各社業績推移を基にした2023年度通期の旅館・ホテル市場（事業者売上高ベース）は、3.4兆円だった2022年度から1.5倍規模となる4.9兆円前後と予想される。4.9兆円規模は、訪日外国人による宿泊需要が旺盛だった 2019年度並みの水準となる。
足元では年末年始の旅行需要、2024年３月にかけての卒業旅行シーズンなど、前年に比べて国内旅行需要がさらに高まることも見込まれ、過去最高の2018年度の5.2兆円を超える可能性もある。ただ、宿泊予約や客室稼働率に制限を設けて運営するなど、旺盛な需要を十分に享受できないケースもあり、年末年始やスキーなどハイシーズンを今後迎えるなか、人手確保が2023年度の旅館・ホテル市場を左右するとみられている。