帝国データバンクが発表した「水産関連業界の景況感に関する動向調査」結果によると、水産関連業界の景気DI(50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」)は、2019年初は全産業の景気DIを大きく下回り、新型コロナへの緊張感が高まり始めた2020年4月には19.1まで急落した。その後は内食需要や年末需要に支えられ、全産業の景気DIを下回る水準にとどまり続けたものの、格差は徐々に改善傾向を示してきた。
直近の動向をみると、2023年3月はマスク規制の緩和にともない消費マインドが変化、前月比5.5ポイント増の39.1と大きく改善。新型コロナが5類へ移行した5月には41.1と、2016年4月以来7年1ヵ月ぶりに40台を超え、7月まで5ヵ月連続で改善した。この間、コロナ前には9ポイント程度あった全産業の景気DIとの差は、5ポイント程度にまで縮まった。魚価の上昇や円安による輸出増、飲食店向け需要の回復などが追い風になった。
しかし、食用油などの各種原材料、空き缶・パウチなどの容器包装資材、エネルギー価格・物流費など様々なコストの上昇により頭打ち感がみられたところ、中国の禁輸も加わり、2023年9月のDIは40.5と2ヵ月連続で悪化した。企業からは、「加工原料不足および消費低迷に加えて、処理水問題での風評被害もあり業況は厳しい」(冷凍水産物製造、岩手)といった声が聞かれた。
最新の水産物の輸出動向をみると、2023年8月の水産物輸出額は前年同月比▲8.2%減の288億円だった。主な輸出先は中国・香港で全体の4割近くを占めており、8月下旬から行われた中国による禁輸措置によって、水産物の輸出に大きな影響が出ている。中国の禁輸措置の長期化を見据えると、中華圏で使われる水産加工品(干しナマコや干しアワビなど)を生産する企業などは、過剰在庫のリスクから生産量の調整を余儀なくされる。
コロナ禍後、景況感が緩やかに改善していた水産業界だが、輸出においては中国・香港への依存度の高さというリスクが浮き彫りとなった。これをきっかけに、インバウンド需要に対応した国内消費の拡大や特定国に依存しない販路の開拓が、業界にとって継続的に取り組む課題となる。また、和食人気などを機会とした輸出先の拡大、日本産水産物のブランディングは、水産業の振興に向けて引き続き重要な施策となる。