帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるもの

 今年は例年の業務に加えてインボイス制度への対応も準備する必要があり、特に、消費税の仕入税額控除について確認すべきことも少なくない。例えば、社員へ通勤手当を支給する場合、ほとんどの社員は適格請求書発行事業者ではないが、通勤に通常必要と認められる部分の金額については、適格請求書が保存されていなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。

 また、国内に出張する時の旅費や宿泊費の扱いについても、同様に、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。この場合の「その旅行に通常必要であると認められる部分」は所得税基本通達9-3に基づいて判断されるので、所得税が非課税になる範囲と同様になる。その「一定の事項を記載した帳簿」の「一定の事項」とは下記の通りだ。

 通勤手当や出張旅費の場合は、通常必要な記載事項のほかに「通勤手当」や「出張旅費」の記載が必要だ。以下は記載や保存方法の一例だが、この通常必要な記載事項の中に「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」があるので、出張旅費を後で精算するような場合であれば、(1)従業員からの精算報告書に「実際の利用年月日、利用した交通機関の名称、利用区間や行先、電車代やタクシー代といった具体的な役務の内容、利用金額」を記載する。

 その上で、(2)経理のほうでは仕訳を会計ソフトに入力する際、摘要に「出張旅費」と入力する。この(1)と(2)を合わせることで記載事項を充足することになるので、元帳や仕訳帳だけではなく、この精算報告書も帳簿として原則7年間保管する、という方法が考えられる。つまり、今とそれほど変わらず、精算報告書を帳簿として保存すれば、同じ内容を会計ソフトに入力する必要はないが、その代わりに保存書類が増えてしまう面はある。

 ほかにも、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるものがあり、上記の出張費等の記載事項に加えて「相手方の住所又は所在地」の記載が必要なものなどだ。例えば3万円未満の自動販売機又は自動サービス機からの商品の購入の場合は、○○市自販機、××銀行□□支店ATMといった記載が必要になる。

 企業の多くは、現在の帳簿は日付と物品名くらいで、購入場所がわかるような記載はしていないものが一般的なので、購入場所まで記載するのは少々面倒になることは否めない。経理担当者以外が立替払いをして後から精算することも少なくないので、精算方法の見直しや社員への説明・周知をする必要が出てくる。それも、インボイス制度が開始される10月1日に間に合うように準備することが求められよう。