厚生労働省の審議会は去る7月28日に 2023 年度の最低賃金の目安を、全国平均で時給1002 円にすると決め、初めて1000円を超えた。また、厚生労働省が発表した2023年6月の働く人1人あたりの現金給与総額は18ヵ月連続でプラスになったが、物価の変動分を反映した実質賃金は15ヵ月連続でマイナスとなった。物価の上昇に賃金の引上げが追いついていない状況のなか、今回の最低賃金の引上げはどのような影響があるだろうか。
そこで帝国データバンクが実施した「最低賃金引上げにともなう企業の対応アンケート」結果(有効回答数1040社)によると、今回の最低賃金の引上げを受けた自社の対応の有無については、何らか「対応する」企業は83.2%と8割を超え、「対応しない」(10.4%)を大きく上回った。具体的な対応策(複数回答)としては、「もともと最低賃金よりも高いが、賃上げを行う」(46.5%)が最も高かった。
次いで「最低賃金よりも低くなるため、賃上げを行う」(25.0%)が続き、最低賃金の引上げを受けて「賃上げ」を行う企業は、70.6%と7割に達した。以下、賃上げの有無にかかわらず、「従業員のスキル向上の強化」(24.0%)、「商品やサービスの値上げ」(21.3%)が 2 割台で並び、「人件費以外のコスト削減」(19.0%)が続いた。また、現時点で従業員を採用する時の最も低い時給は、全体平均は約1086円となった。
現状の最低賃金(961円)からは125円高く、2023年度の目安である全国平均1002円を84円上回った。人手不足を背景に、雇用維持を目的として賃金を高めに設定する動きがあるようだ。業界別にみると、「不動産」、「建設」、「サービスで全体を上回る一方、「小売」、「運輸・倉庫」などでは下回った。2023 年春季労使交渉では賃上げ率が平均3.58%と30年ぶりの高水準に達するなど、物価高等を背景に賃上げの機運は高まっている。
しかし、一方で企業からは、最低賃金の上昇が新規採用に加えて既存従業員の賃金アップにつながり収益を圧迫するほか、「年収の壁」が招く働き控えによる人手不足の深刻化を懸念する声がある。こうした課題を解決するには、原材料費や光熱費に加えて人件費を適切に商品・サービス価格へ転嫁できる環境の整備や、成長分野への労働移動などを通じた企業の生産性の向上、「年収の壁」是正に向けた制度の見直しが急がれる。
同調査結果は