「売上回復」「価格転嫁」が従業員の待遇改善に不可欠

 日本経済の再生に向けて賃上げと経済成長の好循環の必要性が指摘されるなか、従業員の約6割を占める中小企業においても、賃上げが政府や経済団体等から求められているが、中小企業においては、経営上の余裕がないなどの理由から、賃上げが難しいとの声が少なくない。そこで信金中央金庫は、四半期ごとに実施している「全国中小企業景気動向調査」の 2023年4~6月期調査の結果を基に、中小企業における賃上げ等の状況を概観した。

 それによると、賃上げ等の実施状況については、賃上げは44.4%が、一時金の支給は21.5%が実施となった。もっとも、従業員規模別にみると、大きな企業ほど賃上げ等の実施割合が高い傾向にある。また、業種別では、製造業や建設業で賃上げ等の実施割合が高い一方で、小売業や不動産業では低い傾向にある。これらのことから、規模や業種による格差がみられ、中小企業全般に賃上げ等の動きが広がっていないことがうかがえる。

 また、コロナ禍を乗り越えて収益が回復している企業とそうでない企業とで、賃上げ等の状況には大きな差がみられる。具体的には、現在の売上がコロナ禍前を上回っている企業(約27%)では、賃上げ等を実施する割合が高く、下回っている企業(約33%)では賃上げ等を実施する割合が低い傾向がみられた。とりわけ売上が増加した企業では、過半数が賃上げを実施している。

 一方、原材料価格やエネルギー価格の上昇についても、販売価格に転嫁できている企業と、転嫁できていない企業とで、賃上げ等の状況に大きな差がみられる。原材料価格上昇分について「全て転換できている」、「ほぼ転換」と回答した企業の過半数が賃上げをしているのに対し、「転換できていない」企業では 27.4%にとどまった。また、エネルギー価格も同様に「転嫁できていない」と回答した企業では、賃上げ等の実施割合が低くなっている。

 商工中金では、以上のように中小企業の賃上げ等の状況について分析した結果、「売上回復の状況と価格転嫁の状況が賃上げに大きな影響を及ぼすことが分かった。中小企業の持続的な賃上げを実現するためには、売上が回復することはもちろん、元請け企業との取引状況の改善を通じた価格転嫁の実現が必要となろう」と指摘している。

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https://www.scbri.jp/reports/newstopics/20230724-post-455.html