適格請求書等保存方式の下では、振込手数料の取扱いが問題となることがある。売手からの代金請求について、取引当事者の合意の下で買手が振込手数料相当額を請求金額から差し引いて支払うことで売手が負担する商慣行がある。この売手が負担する振込手数料相当額について、適格請求書等保存方式の開始後、売手が代金請求の際に既に適格請求書を交付している場合に、必要となる対応は、取引当事者間の契約関係等によって分けられる。
まず、売手が振込手数料相当額を売上値引きとする場合がある。売手は、振込手数料相当額について売上値引きとする場合、売上に係る対価の返還等を行っていることとなるので、原則として、買手に対して適格返還請求書を交付する必要があるが、一般的には、こうした振込手数料相当額は1万円未満となると考えられるので、その場合は適格返還請求書の交付義務が免除されることとなる。
例えば、売上値引き(振込手数料)の金額が 440 円の場合、その売上値引きに係る適格返還請求書の交付は必要ない。なお、売手が買手に対して売上に係る対価の返還等を行った場合の適用税率は、売上に係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等の適用税率に従う。そのため、軽減税率(8%)対象の課税資産の譲渡等を対象とした振込手数料相当額の売上値引きには、軽減税率(8%)が適用される。
次に、振込手数料相当額について、売手が買手から「代金決済上の役務提供(支払方法の指定に係る便宜)」を受けた対価とする場合がある。売手の買手に対する課税資産の譲渡等と、買手の売手に対する代金決済上の役務の提供は、それぞれ異なる課税資産の譲渡等となる。したがって、売手は、請求金額から差し引かれた振込手数料相当額について、仕入税額控除の適用を受けるためには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要となる。
そのほか、買手が売手のために金融機関に対して振込手数料を立替払したものとする場合がある。買手が売手に代わって振込手数料を立替払したものとする場合、売手は、買手が金融機関から受け取った振込手数料に係る適格請求書及び買手が作成した立替金精算書等の交付を受け、振込手数料に係る仕入税額控除を行うことになる(この場合、買手が請求金額から差し引く金額が金融機関の振込手数料と同額である必要がある)。
なお、買手が金融機関のATMを使って振込手続きを行った場合、そのATM手数料は自動販売機特例の対象となるので、買手が金融機関から受け取った適格請求書及び買手が作成した立替金精算書等の保存は不要となる(売手は、買手が差し引いた金額が振込手数料であること及び立替えでの支払が金融機関のATMでの振込みであることを確認した上で、一定の要件の下で帳簿のみの保存により仕入税額控除を行うことが可能となる)。