このほど国税庁が公表した2021事務年度の所得税等の調査状況では、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を優先して調査した結果、追徴税額の総額は、新型コロナウイルス感染症影響前の水準に近づいている。そうしたなか、国税当局では同事務年度も“富裕層”への調査を積極的に行っており、申告漏れ所得金額が最高額を更新し、追徴税額や1件当たりの申告漏れ所得金額が大幅に増加したことが明らかになった。
国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施している。今年6月までの1年間(2021事務年度)には、前事務年度比3.2%増の2227件の富裕層に対する実地調査が行われ、同72.3%増の申告漏れ所得金額839億円が把握された。申告漏れ所得の総額は富裕層対象の統計を始めた2009年度以降で最高額となった。
実地調査の結果、調査件数の約88%に当たる1963件(前年対比6.5%増)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額839億円について、238億円(同103.4%増)を追徴した。1件当たりの申告漏れ所得金額は過去最高の3767万円(同66.8%増)となり、追徴税額は1067万円(同96.5%増)と、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たり323万円と比べ約3.3倍にのぼる。
また、国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた477件(前年対比▲7.7%)に対して調査を展開し、約91%に当たる433件(同▲4.4%)から374億円(同149.3%増)の申告漏れ所得金額を把握、141億円(同213.3%増)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は7836万円(同169.8%増)、追徴税額は2953万円(同235.9%増)と高額だ。
調査事例をみると、CRS情報により把握した国外預金等を端緒に、申告漏れを把握したものがある。CRS情報を活用し、日本人である調査対象者Aが海外金融機関から得た利息等の漏れを把握するとともに、外国法人の留保利益についてCFC課税(外国子会社合算課税)を行った事例だ。Aに対しては、所得税5年分の申告漏れ所得金額約15億4300万円について加算税込み(重加算税はなし)の税額約8億1400万円を追徴している。