原材料と人手不足、中小企業を覆うコロナ禍の反動

 東京商工リサーチが発表した「取材の周辺」と題したレポートによると、原油高にロシアのウクライナ侵攻、円安進行などを背景とした原料不足や価格上昇が国内の中小メーカーを直撃している。コロナ禍で隠れていた人手不足が経済の再活性化のなかで表面化し、生産計画に狂いが生じ、現場担当者は頭を抱えている。都内23区内のA社は従業員10人ほどの小さなメーカーだが、今年に入り取引先からの電話がひっきりなしという。

 資金繰りや信用不安の問い合わせではない。同社が手掛ける部品加工に欠かせないフッ素樹脂の入荷が遅れていることを知った取引先からの、当面の加工品の出荷量やフッ素樹脂の入荷を確認する電話が途絶えないのだ。A社の社長は、「フッ素樹脂が今年に入りずっと品薄状態が続いている。うちだけの特別な問題じゃないから、ある程度は我慢するが、ここまで来ると……」と困惑顔で語る。

 キッチン用品で使用されることで知られるフッ素樹脂だが、耐熱性などの性質から、半導体用途で引き合いも多い。「うちへの入荷は、1ヵ月以上も遅れることがある」と疲労困憊の様子。A社が部品加工で使用するフッ素樹脂は、半分以上を中国で生産された輸入品に頼っている。昨年末からの原油高騰に加え、今春の中国国内のロックダウンも重なり、日本の大口需要家で必要な量の確保が困難な状況が続いている。

 絶え間なく寄せられる取引先からの注文や原材料の納品遅れを知らせる電話に、さすがに仕事が回らなくなり、社長は「60代ぐらいの番頭さんを探そう」と求人に動いた。営業の仕事を理解し、電話対応や営業伝票の処理等の事務作業をこなせる人材だ。給与額は一般的な中小企業の水準よりも高く設定したが、ハローワークや人材会社を通じても「応募はない」と肩を落とす。

 A社のように求人を募っても反応がなく、仕事に追われて七転八倒する企業が増えている。解消のメドが立たない原材料不足。そして、中小企業を襲う人手不足。「今は値上げばかりが注目されるが、そもそもモノ自体がないし、人手も足りない。これが長期化するのが心配だ」と、A社の社長は製造現場の窮状を切に訴える。少子高齢化の日本では、コロナ禍の回復期に人手不足が起きることはわかっていた。

 コロナ禍で人手不足が隠れていたに過ぎないからだ。日本の15歳以上65歳未満の生産年齢人口は、1995年の8716万人をピークに減少に転じている。こうした中でのモノ不足、人手不足。いきなり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むのも難しい。レポートは、「コロナ禍から脱却するための事業再構築は、こうした中小企業にも視線を広げた多様な取組みが必要だ」とコメントしている。

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