2222年度年金額は0.4%減額、現役賃金下落と痛分け

 ニッセイ基礎研究所では、2022年度の年金額改定の仕組みを概観し、次期年金改革への影響を考えるレポートを発表した。現在の公的年金額の改定(毎年度の見直し)は、2つの要素から構成され、1つは、物価や賃金の変化に応じての年金額価値の維持という、年金額改定の基本的な意義の部分。加えて、現在は年金財政健全化の最中なので、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(いわゆるマクロ経済スライド)も加味される。

 2022年度の改定では、本来の改定率が-0.4%、マクロ経済スライドは特例に該当して次年度へ繰り越されたため、年金額の改定率は-0.4%となった。本来の改定率は、物価の変動率と賃金の変動率の組合せで決まる。物価の変動率は、変動へ即座に対応するために前年(1~12月)平均の消費者物価指数(総合)の上昇率が使われる。2021年は年末にかけて物価が上昇したが、年平均は-0.2%となった。

 他方で賃金の変動率は、前年の物価上昇率と2~4年度前の実質賃金変動率との合計が使われる。急変を避けるために3年平均で、今回はコロナ禍による2020年度の賃金下落が3分の1だけ影響して-0.4%となった。この結果、2021年度の改正が機能し、年金受給者全体の本来改定率が現役賃金の下落と同じ-0.4%となった。マクロ経済スライドは年金財政の健全化に必要な方策だが、本来の改定率がマイナスの場合には実施されない。

 本来の改定率によるマイナスとマクロ経済スライドによるマイナスという、ダブルパンチを避ける形になっている。実施されなかった分は、以前の制度では実施されないまま流されていたが、年金財政の健全化を進めるために2018年度から次年度へ繰り越されている。今回は、当年度分の調整率-0.2%に加えて前年度からの繰越分が-0.1%あったが、本来の改定率がマイナスだったため、両者を合わせた-0.3%が2023年度へ繰り越された。

 2022年度の年金額は、コロナ禍による現役世代の賃金下落を反映して2年連続で減額されることになったが、それと同時に、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(マクロ経済スライド)も2年連続で繰り越されることになった。現時点の繰越しは小幅であり、2021年度は2020年度と比べて賃金の水準が回復したことや昨年末から続く物価上昇などを考えれば、2023年度はある程度の調整が実施される可能性がある。

 しかし、仮に2023年度も調整が実施されなければ3年連続の繰越しとなり、繰越しを撤廃し調整の完全適用を求める経済界等からの声が強まる可能性がある。経済界は、厚労省が2020年12月に公表した次期改革の素案と同様の方策に対して、2019年時点では慎重な姿勢を見せていた。2023年度の年金額改定が、次期年金改革を巡る駆引きを左右する可能性があるとみている。

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