信金中央金庫はこのほど「日本の所得・消費・資産と格差・貧困の状況」と題したコラムを発表した。岸田政権は、成長と分配の好循環を目指す『新しい資本主義』を推進している。賃金が長期間低迷している一方で企業は利益を優先し、労働者への所得の分配を抑制しているとの批判が背景にある。また、コロナ禍で非正規労働者などの生活の困窮が社会問題化するなど、所得格差や貧困への対応が喫緊の課題になっている。
そこでコラムでは、労働者への分配の結果である所得・消費の動向について概観し、世帯の所得・消費や資産状況、所得格差や貧困の状況及びその背景にある世帯構造・雇用形態・学歴等の日本社会の構造変化について考察している。それによると、2020年の平均給与は433万円で30年前の水準にとどまった。労働分配率は2015年度に66.7%へとバブル期と同水準まで低下したが、その後は上昇している。
ただ、大企業の労働分配率は2018年度に51.3%まで低下するなど、従業員や取引先の中小企業等への分配は消極的だ。実質雇用者報酬の推移をみると(対1997年1~3月期比)、生産数量や労働分配率が押上げに寄与した一方、単位当たり付加価値の低迷が足かせになっている。DXや人的資本への投資等で競争力のある財・サービスを創出するなど、需要喚起や高付加価値化を図る必要がある。
世帯年収の中央値は451万円で(2019年)、半数は451万円以下で暮らしている。一方、年収上位20%は800万円、上位10%は1040万円を上回るなど、高所得世帯は少なくない。高齢者は無職世帯が多いが、年収下位10%の無職世帯は預金を取り崩して生活するなど、平均消費性向は124%に達する。一方、年収が中間層の無職世帯は、住宅ローンを完済して資産もあるなど、所得と同水準の消費を行っており、平均消費性向は勤労者世帯より高い。
また、世帯の金融資産の64%は低利の現預金で保有されるなど、現預金・不動産や高齢者に偏在する資産の有効活用が求められる。所得再分配後のジニ係数や相対的貧困率の近年の推移をみると、著しい悪化はみられない。ただ、ひとり親世帯の子供の貧困率が高水準であるなど、離別率の上昇や非正規雇用の偏重などの世帯構造や雇用形態の変化は、暮らしを不安定化させる方向にシフトしてきた。
コラムは、「行政や地域金融機関は、スキルアップなどで賃金を改善させる意欲がある者に対して、職業訓練期間中の資金支援、企業と求職者とのマッチング等の就労支援、能力に応じた賃金体系への見直し、金融教育による資産形成の取組み等の支援など、人的資本への投資を一段と強化することが、日本の成長と分配を向上させ、格差や貧困を是正させるカギとなろう」と結論している。
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