9月から紙に代えて電子的な受取証書の請求も可能に

 現行民法では、書面の受取証書の交付請求権、交付義務のみを規定している。つまり、受取証書(いわゆる領収書)の交付請求として規定しているのは書面のみだが、5月12日に成立したデジタル整備法の一部である民法改正により、本年9月1日から、紙の受取証書の請求に代えて、その内容を記録した電子データ(電子的な受取証書)の提供を請求することができるようになった。

 社会全体として在宅勤務が推奨されているなか、主に勤務先での税務処理等の観点から必要とされる受取証書の受領・保管等の事務を行うためだけに出社を余儀なくされたという声などがあったことが背景にあるようだ。一方、受取証書の提供者側には、紙代や印刷代等の経費削減、レジの混雑緩和、書類として管理する手間や管理スペースの削減などのメリットが考えられている。

 加えて、今後ますます取引実務のデジタル化が進むと考えられることなどから、電子データの提供の請求ができるよう措置が講じられたものだ。今回の改正により、支払者側は紙の受取証書又は電子的な受取証書のいずれかの請求を選択することになるが、小売店のシステムが未整備の場合や不相当な負担となる場合などのように、事業者が電子的な受取証書への対応が困難なときには紙での対応も可能だ。

 内閣府と法務省では、実務の参考とするため、この電子的な受取証書(新設された民放第486条第2項関連)についてのQ&Aを公表しており、税務関連の設問として、「民法上の受取証書」と「消費税の仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要となる請求書等」(「区分記載請求書等」)、及び2023年10月から導入されるインボイス制度の「適格請求書」との関係性を取り上げている。

 それによると、民法上の受取証書と区分記載請求書等では、必要とされる記載事項が異なるが、民法上の受取証書に区分記載請求書等として必要事項が記載されていれば、これを保存することで、消費税の仕入税額控除の適用を受けることができる。また、適格請求書は、区分記載請求書等に一定の記載事項を追加したものなので、民法上の受取証書に適格請求書として必要事項が記載されていれば、これを適格請求書とすることも可能としている。

 このため、電子的な受取証書についても、消費税の仕入税額控除の適用のために保存が求められるものとして活用の際には、区分記載請求書等として必要な記載事項を満たす必要があるとした。なお、区分記載請求書等とは、請求書や領収書などで、(1)請求書発行者の氏名又は名称、(2)取引年月日、(3)取引内容(軽減税率の品目である旨)、(4)税率ごとに区分・合計した税込対価の額、(5)請求書受領者の氏名又は名称、の情報が必要とされる。

 なお、電子的な受取証書が普及することにより、消費者と事業者双方に様々なメリットがあると考えられる。まず、消費者にとっては、環境保護への貢献、財布が膨らむことによる煩わしさの低減、紛失の回避、新しい生活ツールとしての活用(家計簿アプリや健康管理アプリ等との連携により、家計簿の自動作成や、購入した食品のカロリーの自動計算等が可能)、(個人事業主にとって)経費精算や確定申告への活用などがある。

 一方、事業者にとっては、環境保護への貢献、紙代や印紙代等の経費削減、レジの混雑緩和、人件費の削減(レシートのロール交換が不要)、キャンペーンサイトへの誘導等、販促ツールとしての活用、大量の購買データ分析によるマーケティングや販売戦略策定への活用、消費者とのコミュニケーションツールとしての活用(紙レシートのように紙面の大きさの制約なく、双方向のコミュニケーションが可能)などが考えられる。

 電子的な受取証書についてのQ&Aは↓
http://www.moj.go.jp/content/001352519.pdf