フルタイム正社員の賃金増加に及ぼす影響を分析

 2020年の国内景気は新型コロナの影響で大きく傾き、企業業績は大きなダメージを受けた。そうしたなかで、2021年度の賃金改善見込みは2020年度より大幅に減少している。帝国データバンクは、賃金の増加割合が突出して高かった「フルタイム正社員」に対して、どのような項目が影響を及ぼしているのかについて、「フルタイム正社員」以外の雇用形態に関する項目や企業の景況感、企業の人手不足感を説明変数として、回帰分析を行った。

 帝国データバンクが2021年1月に実施したアンケート調査「2021年度の賃金動向に関する企業の意識調査」では、雇用形態別における2021年度の賃金の変化を尋ねている。調査結果によると、賃金の増加では「フルタイム正社員」が36.9%でトップとなった。次いで2位となったのは「外国人労働者」が18.9%で、フルタイム正社員以外は2割以下となった。特に「派遣労働者」は7.9%と1割を下回っていた。

 「フルタイム正社員」は企業にとって最も多い雇用形態となっているが、他にもさまざまな雇用形態が存在している。社員を雇用する際は人件費総額を考慮に入れる必要があるなかで、他の雇用形態の賃金動向がフルタイム正社員の賃金動向に一定の影響を及ぼす可能性がある。分析すると、「フルタイム正社員」の賃金動向に対しては「パートタイム労働者」の賃金動向による影響が最も大きく、5%水準で有意に正の影響を与えていた。

 2020年は国内景気が大きく傾いた影響で2021 年度の賃金改善見込みは大幅に減少しているものの、景況感が比較的良い企業では、そうでない企業より賃金を増加させる傾向もみられている。そこで「企業の景況感」に関してみると、景況感はフルタイム正社員の賃金増加に対して、1%水準で有意に正の影響を与えていた。景況感が良いほどフルタイム正社員の賃金増加に正の影響を与える結果となった。

 以上、「フルタイム正社員」の賃金増加に与える要因について、雇用形態、企業の景況感、企業の人手不足感の観点から分析を試み、「フルタイム正社員」の賃金動向に最も強く正の影響を与えている項目は「パートタイム労働者」となった。そこにはさまざまな要因が考えられるが、例えば最低賃金の引上げなどはパートタイム労働者の賃金を上昇させることになり、その結果としてフルタイム正社員の賃金が増加している可能性が考えられる。

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https://www.tdb-di.com/2021/03/r2021033001.pdf