第一生命経済研究所がこのほど発表した標題のレポートによると、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにテレワークが普及している一方で、企業が発行する請求書などの証明に必要な電子的な社印、いわゆる「eシール」は普及していない。そのため、テレワークで完結できる仕事が増加する一方、ハンコ押印のために出社を余儀なくされる人がいる。「eシール」の普及は、テレワーク時代の働き方を変革する大きな役割を担うといえる。
組織の正当性を証明するのが社印だが、これに相当するデジタル上のハンコを「eシール」という。請求書や領収書に「eシール」を付与することで、社印と同様の効力が発生する。「eシール」は、トラストサービスと言われるサイバー空間における信用の証の1つとして位置づけられる。トラストサービスは、インターネット利用者の本人確認やデータの改ざん防止を担保することを目的に創られた。
新型コロナウイルス感染拡大によりテレワークという新しい働き方が普及する今、トラストサービスを利用することにより、物理的に離れた状況においてもインターネットを通じて、取引や契約が可能な点に活用が見込める。「eシール」を使えば、押印作業は不要となり、郵送は電子メールに置き換えられ、受け取る企業においても郵便受付はメール受信に代替される。
EUでは「eシール」の実装が進んでいる。例えば、エストニア発のX-Roadと呼ばれる官民連携基盤において税金、保健、医療、銀行など多岐にわたるサービスをオンライン上で展開。組織間で情報連携する際に、送信元サーバーにて「eシール」を付与するため送信元組織の正当性が証明される。エストニアでは、「eシール」を始めとしたトラストサービスの活用で、結婚、離婚、不動産売買以外の処理はオンライン化に成功している。
総務省トラストサービス検討WG最終取りまとめによれば、「eシール」導入効果について、大企業1社あたり現状月10.2万時間の業務量は月5.1万時間に半減する試算が示された。今後、企業が、「適格eシール」の利用範囲を、見積書や請求書などの会計帳票のみならず、IR、プレスリリースなどの書類にも拡大すれば、それは更にペーパーレス化、生産性向上効果を享受できる社会を創りだし、多様な働き方を支える礎となる。
日本の歴史を振り返れば、黒船来航や先の敗戦など社会システムを大きく変えなければならない困難に直面した際に、法律や慣習といった決まり事が大きく変化してきた経緯がある。新型コロナウイルス感染拡大の先行きは不透明であるものの、この困難を変革のきっかけにすることが求められる。レポートは、「eシール」の活用を、ウィズコロナ時代に必要な新しい働き方への第一歩とすべきとの考えを示している。
同レポートの全文は↓
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2020/wt2010.pdf