東京商工リサーチが発表した「老人福祉・介護事業と障害者福祉事業の休廃業・解散調査」結果によると、2019年の「老人福祉・介護事業」の休廃業・解散は395件(前年比11.2%減)で、調査を開始した2010年以降、初めて前年を下回ったが、集計開始10年間で最多だった2018年の445件に次ぐ2番目の高水準だった。また、倒産は過去最多に並ぶ111件で高止まり、2019年の倒産と休廃業・解散の合計は506件で、高水準が続いている。
また、2019年の「障害者福祉事業」の休廃業・解散は106件(同51.4%増)と急増、これまでの最多件数を大幅に更新した。倒産も最多の30件(同30.4%増)に急増し、2019年の倒産と休廃業・解散の合計は136件(同46.2%増)で、前年の93件から大幅に増えた。2019年の両事業の休廃業・解散の合計は501件で、両事業ともに高齢化社会を迎え、市場拡大にビジネスチャンスを狙い安易に新規参入した企業の淘汰、休廃業が相次いだ。
「老人福祉・介護事業」は、人手不足が経営の足かせになっている代表的な業界でもある。休廃業・解散が増えている要因の一つは、介護職員の不足で事業継続が難しくなっていることが指摘される。特に業歴が浅く、過小資本の企業が人材の獲得競争に敗れるケースが多い。今後も高齢化が進むだけに、市場拡大を見込んで福祉事業に参入する企業は増加が見込まれるが、しばらくは“多産多死”のシビアな状況が続くとみられている。
一方、「障害者福祉事業」は、新規参入の企業でも受け取れる補助金を頼りにした企業も目立つ。こうした経営基盤がぜい弱な企業が、無計画な放漫経営から休廃業・解散や倒産に追い込まれるケースが急増。障害者を雇用する企業の突然の経営行き詰まりで、障害者が解雇される事態が問題視されている。このため、厚労省は一部の事業所に経営改善計画の提出を求め、適切に運営されているかチェックを強めている。
「老人福祉・介護事業」と「障害者福祉事業」は、それぞれ大手との競合激化、従業員の採用難、そして、後継者の不在など、小・零細規模の事業者にとって二重、三重の高い壁が立ちはだかっている。「老人福祉・介護事業」や「障害者福祉事業」の充実には、民間の活力が欠かせない。だが、門戸を広く開放すると補助金狙いの企業や無計画、未熟な企業の参入が増え、健全な事業を阻害しかねないジレンマを抱えている。
2018年4月の「障害福祉サービス等情報公表制度」施行に伴い一般利用者も各事業者のサービス内容や管理体制などを閲覧・検索できるため、サービスや信用力がより重視される。今後はさらに、経験を積み、適切な運営で持続可能な企業と、生き残りが困難な企業の二極化が拡大する。福祉事業者の休廃業・解散は、新規参入しながら人材や資金面に制約を抱えた小・零細事業者を中心に、しばらく高水準で推移する可能性が高いとみられている。
同調査結果は↓