2008年11月に私的再生スキームの1つとして運用が始まった事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)の利用が増えている。2018年度(4~3月)の事業再生ADRの利用申請は8件(22社)で、件数・社数ともに2年連続で前年を上回ったことが東京商工リサーチの取材でわかった。2019年度も7月31日までに3件(4社)が利用申請しており、3年連続で増加が見込まれている。
事業再生ADRは、産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣から特定認証紛争解決事業者として認定を受けた機関が仲立ちする。事業再生実務家協会(JATP)が、国内唯一の認証機関。事業再生ADRは、金融債権を返済停止や元本カットの対象とするため、民事再生などの法的整理に比べて事業価値の毀損が少ないとされ、また、第三者機関であるJATPが関与することから、「純粋な私的整理」よりも公平性が担保されるなどの利点がある。
2018年度は、6月に田淵電機(株)、2019年1月に曙ブレーキ工業(株)が申請した。この他、非開示を含め合計8件(22社)が利用申請し、2017年度の5件(14社)を上回った。2019年度に入っても、6月に(株)文教堂グループホールディングスなどが申請し、7月31日までに合計3件(4社)が利用している。
最近、利用申請した企業の担当者は「一般債権者が保護され、通常のビジネスに影響を与えない。上場維持についても(法的整理に比べ)柔軟に対応できる」と事業再生ADRを選択した理由を明かす。2013年3月に中小企業金融円滑化法が終了した後も、金融機関は資金繰り支援を維持している。さらに、官主導の再生スキームの乱立で、2013年度以降の事業再生ADRは利用申請が落ち込んでいた。
だが、2018年5月のREVIC(地域経済活性化支援機構)法の改正や、金融機関の抜本再生への取組み加速などで、利用が増加に転じた。事業再生ADRを所管する経済産業省の担当者は、利用申請の復調について「ADR制度が浸透してきたのではないか。また、法の改正でREVICは事業再生だけでなく、ノウハウ供与・人材派遣も手掛けるようになり、ADRとの棲み分けができた」と話しているという。