事業承継・廃業に伴う「経営資源の引継ぎ」を分析

 東京商工リサーチが2019年版中小企業白書を基に分析・紹介する第2回目は「経営資源の引継ぎ」だ。白書では、中小企業の経営者を引退した者を対象にしたアンケート調査等を基に、事業承継や廃業について分析を行っている。事業承継する場合、少なくとも何らかの経営資源の引継ぎが行われるが、事業用資産の引継ぎの状況をみると、「全部を引き継いだ」と回答した割合は約6割だった。

 事業承継を実施した経営者のうち、後継者に全部の事業用資産を引き継いでない者が、引継ぎを実施していない理由について、親族内承継では、「贈与税の負担が大きい」と回答した割合が高い。これは、親族内承継では生前贈与の税負担が課題とみている。この課題に対し、2018年度に法人版の事業承継税制の特例措置が創設され、2019年度からは個人版の事業承継税制の特例措置が創設されている。

 役員・従業員への承継では、「後継者が買い取る資金を用意できない」と回答した割合が高い。事業用資産を全て後継者に引き継ぐためには、後継者側の資金の準備が必要になる。後継者が早めに金融機関などに相談を始められるよう、経営者として早めに意思決定を行い、その旨を後継者に伝えることが、将来の安定した事業継続につながるとみている。社外への承継では、「後継者が引継ぎを希望しない資産がある」と回答した割合が高い。

 また、廃業する場合、事業は引き継がれないものの、個別の経営資源を他社に引き継ぐことは可能である。今回の白書ではこうした廃業に伴う経営資源の引継ぎについても分析している。白書では、まず廃業した経営者が事業を継続しなかった理由について確認。「もともと自分の代で畳むつもりだった」が最も多く(58.5%)、廃業した経営者の半数以上は事業を次世代へ引き継ぐ意思がなかったことが分かる。

 次いで、「事業の将来性が見通せなかった」、「資質がある後継者候補がいなかった」などが多く、早期の経営改善の取組や後継者探しをしていれば、事業を引き継ぐ可能性のあった経営者も一定数存在することが分かった。次に、廃業に向けた取組みの中で苦労したことについてみると、「顧客や販売先への説明」、「従業員の処遇」、「資産売却先の確保」など、経営資源の引継ぎに関わる取組みが多いことが分かった。

 実際に実施された経営資源の引継ぎは、経営資源によって異なるが、廃業した経営者のうち各経営資源を有する者の概ね5割~6割程度は実際に経営資源の引継ぎを実施。経営資源の引継ぎを実施しなかった理由として「引継ぎをするという発想がなかった」、「引き継ぐ価値があるとは思わなかった」などを挙げる者が一定数存在する一方、何らかの経営資源の引継ぎを実施した者のうち6割は有償で経営資源の引継ぎを実施していた。

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http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190618_01.html