国税庁が先日公表した2016年度租税滞納状況によると、新規発生滞納の抑制及び滞納整理の促進により、今年3月末時点の滞納残高は前年度に比べて4.9%減の8531億円と19年連続で減少した。同庁では、処理の進展が図られない滞納案件については、差押債権取立訴訟や詐害行為取消訴訟といった国が原告となる訴訟を提起したり、滞納処分免脱罪による告発を活用して、積極的に滞納整理に取り組んでいる。
原告訴訟に関しては、2017年度は167件(前年度158件)の訴訟を提起した。訴訟の内訳は、「差押債権取立」23件、「供託金取立等」9件、「その他(債権届出など)」131件のほか、特に悪質な事案で用いられる「名義変更・詐害行為」が4件。そして、係属事件を含め178件が終結し、国側勝訴は34件、取下げが12件、和解が1件、その他(申立てのみで終了)が131件で、国側敗訴は0件となっており、滞納は順調に整理されている。
また、財産の隠ぺいなどにより滞納処分の執行を免れようとする悪質な滞納者に対しては、「滞納処分免脱罪」の告発を行うなど、特に厳正に対処している。同免脱罪の罰則は、3年以下の懲役か250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科とされている。2017年度は、6件(8人員)を告発、うち7人員が起訴されて、裁判で4人員に執行猶予付きの懲役刑(うち2人員には罰金刑も付加)が科され、残りの3人員には罰金刑のみが科された。
悪質な滞納事例をみると、飲食業を営む滞納者Aは、店舗として入居していたビルの貸主から立退きを求められ、立退料2500万円が支払われた。Aの財産を調査していた徴収職員は、立退料が振り込まれたAの口座から従業員だったB(Aの配偶者)及びC名義の預金口座に合計2500万円が振り込まれ、さらに同日、B・C名義の預金口座から、Aが実質的に経営するD社の預金口座に同額が振り込まれていることを把握した。
Aは、B及びCに退職金を支払い、その金銭をD社の新店舗の改装のための資金として貸し付けてもらったと述べたが、BはD社への貸付けを知らず、また、Cからは、Aに頼まれて金銭を移し替えただけとの証言を得た。徴収職員は、B・C名義の預金口座に2500万円を振り込んだ上で、D社に同額の金銭を振り込ませた行為は、滞納処分を免れる目的でされた財産の隠ぺいに該当と判断し、Aを滞納処分免脱罪で告発、罰金50万円が科された。
なお、上記の「詐害行為取消訴訟」は、国が、滞納者と第三者との間における債権者(国)を害する法律行為の効力を否定して、滞納者から離脱した財産をその第三者から取り戻して滞納者に復帰させるために行うもの。また、「名義変更訴訟」は、国税債権者である国が、国税債務者である滞納者に代わって、滞納者に帰属しながら滞納者の名義となっていない財産の名義を滞納者名義とすることを求めて提起するものだ。