役員退職金について、法人税法では、無制限に損金算入を認めているわけではない。役員の退職に伴って支払われる役員退職金は、その企業への貢献度や職責などから一般の従業員に比べれば高額となろうが、不相当に高額な退職金を支払った場合は、その不相当に高額とされた部分の損金算入が否認される。この“不相当に高額”かどうかの判定基準として一般的に広く用いられているのが功績倍率という算式である。
この判定基準は、退職給与の額を「退職役員の最終月額報酬×勤続年数」で割って算出された「功績倍率」を、同業種の類似法人のそれと比較して、極端に高い場合には、その役員退職金は過大だと判定するものだ。例えば、類似法人の功績倍率が5であるのに、その法人の役員に支払われた退職金の功績倍率が10であるとすれば、その役員退職金は過大と判断され、その高額な部分の損金算入が否認されるわけだ。
同業類似法人は、(1)地域、(2)業種、(3)退職時期、(4)売上金額、(5)退職事由、(6)所得金額、(7)在籍年数などの各指標に一定の基準を設け、その基準に合致した法人を抽出して選定する。また、一般的には、3倍の功績倍率が一応の目安とされているが、これまでの裁判例をみると、1.18倍を筆頭に、2倍に満たない功績倍率で適正退職給与を算定した例も少なからず見受けられ、3倍であれば無条件に認められると断言はできない。
ところで、この功績倍率方式は、功績倍率が最終月額報酬によって大きく影響を受けるという欠点がある。例えば、資金繰りなど会社の都合で役員の報酬を同業他社の類似法人に比べ低額にしていた場合は、適正退職給与額も低額になってしまう。そこで、こうした欠点を補うため、平均功績倍率方式を補完する方法として、「1年当たり平均額法」という判定基準も比較的広く利用されている。
これは、支給された退職給与の額を勤続年数で割って1年当たりの退職金相当額を算出したものを同業種の類似法人と比べる方式だ。だから、最終月額報酬が低すぎて功績倍率が大きくなりすぎても過大とみられない可能性もある。ただし、逆に功績倍率では不相当に高額ではなくても、1年当たり平均額法で否認される可能性もある。退職金を多く支払うために、最終月額報酬のみを不相当に引き上げるのは要注意となろう。