脱税の手口でポピュラーなのは経費の架空計上だが、特に中小企業にみられる手法に、実際には支払っていない給料やアルバイト代などの人件費の架空計上がある。納税は国民の義務であることは重々承知しているが、企業業績が改善してきて所得が増えてくると納める法人税を減らしたくなるのは世の常。合法的な節税は結構だが、行き過ぎた節税(脱税)に誘惑をかられる経営者が相変わらず少なくないようだ。
架空人件費の計上には、まったく架空の従業員を捏造する強引な手口もあるが、多いのは勤務実態のない家族などを社員にして人件費を過大計上する手口だ。さらには、架空計上がばれないように、この架空人件費に対する源泉所得税をご丁寧に納税しているケースもみられる。きちんと源泉徴収しておけば、架空計上は調査されないと考えるのだろうが、税務調査はそんなに甘くはない。
このようにしてごまかした所得は、経営者の私的な交際費やマイカーの購入費などに充てられることも多い。このような所得の圧縮が税務調査などで判明した場合は、損金となっていた架空人件費が役員賞与とみなされて損金算入が否認され、増えた所得に対して法人税が追徴されるだけでなく、役員賞与として追徴課税される。つまりは、法人税と所得税でダブル追徴課税されることになるわけだ。
ところで、上記の架空人件費に対して納税していた源泉徴収額については、実際には支給されていない給与に対するものであることから、還付の対象となる。第三者からみれば、税金をごまかしたペナルティーとして没収してもいいように思えるが、税法にはそのような罰則規定はない。納税の意図はともかく、間違って納めたものは返してくれる。ともあれ、結局余分な税金を納めるはめにならないように、適正な申告を心がけたいものだ。
企業が提出する税務関係の書類には、従業員のマイナンバー記載が義務付けられる、2016年施行のマイナンバー制度により、架空人件費の摘発を狙った税務調査が急増するといわれている。税務調査で架空人件費を疑われないように、日頃から、(1)履歴書、雇用契約書、(2)タイムカード、給与明細、(3)扶養控除等申告書、源泉徴収簿、給与支払報告書、(4)社会保険加入関連書類、算定基礎届、などの書類をしっかりと保存しておくことが必要だ。