配偶者手当とは、配偶者がいる従業員に対して支給される手当。ニッセイ基礎研究所は、「配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか」と題したレポートを発表した。それによると、配偶者手当は、高度経済成長期の日本型雇用システムと共に企業に普及し、2009年には74.7%の企業が採用していたが、近年、配偶者手当を廃止する企業が増加。2023年時点で、配偶者手当を支給する企業は56.2%と、大幅に減少した。
配偶者手当を廃止する企業は2015年頃から増加。主因として、故安倍晋三元首相の女性活躍推進政策の一環として、国民健康保険第3号被保険者(被扶養者)の就業調整の解消を図ったことがある。就業調整は、主に年収の壁による手取り額の減少と、配偶者手当の削減を回避するために行われる。配偶者手当は、受給条件として配偶者収入で103万円以下または130万円以下とする場合が多く、この条件から外れないように就業調整を行う。
言わば年収の壁の様な効果を及ぼしてきたわけだが、少子高齢化による人手不足が深刻化するなか、働く意思がありながら就業を調整する状況は、効率的な労働供給を妨げてしまう。こうした背景から、配偶者手当の廃止や削減が推進された。配偶者手当見直しの特徴として、国の積極的な先導が挙げられる。特に、国家公務員の配偶者手当の見直しが果たした役割は大きい。見直しは、2016年の人事院勧告に従い、同年に実施された。
廃止が進んだ背景には、政策要因の他に、配偶者手当に対する社会的ニーズの低下も挙げられる。従来、配偶者手当は、男性が配偶者を扶養するという前提で制度が成熟した。しかし、共働き世帯数は、1990年代に専業主婦世帯数を上回り、現在では専業主婦世帯数の2倍以上に達した。配偶者手当は、今や誰しもが受け取れる手当ではない。むしろ、配偶者を有さない従業員にとって不公平という声もある。
社会的ニーズの変化とは言え配偶者手当の見直しは、手当を受けている人にとり収入の減少を意味する。したがって、例えば、見直しと併せて子ども手当や介護手当の支給・増額や、削減額の基本給への組入れ、また支給額を段階的に削減する激変緩和措置など丁寧な対応が挙げられる。レポートは、「配偶者手当の見直しは、従業員ファーストという視点で、慎重かつ丁寧に実施されることが望ましい」とのコメントで結んでいる。
レポートの全文は
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78138?site=nli