給与を返還すれば正当に徴収された所得税等も減少

 国税不服審判所は、給与を返還した場合には源泉徴収の規定により正当に徴収された又はされるべき所得税等の額も減少すると判断した。これは、給与の返還に伴って源泉徴収の規定により正当に徴収された又はされるべき所得税等の額が減少した場合には、その減少後の正当に徴収された又はされるべき所得税等の額を超える金額を算出所得税額から控除し、又は還付を受けることはできないとしたもの。

 この事案は、法人の代表取締役であった請求人が、法人から役員報酬等の一部について不当利得返還請求訴訟を提起され、認容判決を受けたことに伴い法人に役員報酬等の一部を返還した後、返還した役員報酬等に係る源泉徴収税額が過大だとして所得税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、納付税額が過大だったとは認められないなどとして行った通知処分に対し、請求人がその処分の全部の取消しを求めた事案である。 

 請求人は、役員給与につき源泉徴収された所得税等について、その役員給与を一部返還したことにより過大となったにもかかわらず、源泉徴収義務者が源泉徴収税額の精算をしない場合には、源泉徴収義務者が請求人に役員給与を支払う際に徴収した源泉所得税を国は収納し利益を得ているのであるから、本件の各更正の請求により本件各源泉所得税の額の還付を受けることができる旨主張した。

 しかし裁決は、請求人の主張の理由として挙げた所得税法(平成31年法律第6号による改正前のもの)第120条《確定所得申告》第1項第5号の「源泉徴収された又はされるべき所得税の額」は、実際に源泉徴収された所得税等の額と解するのが相当としたことに対し、同号にいう「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、所得税法の源泉徴収の規定に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税等の額を意味するものと指摘。

 したがって、役員給与が減額された以上、源泉徴収の規定により正当に徴収された又はされるべき所得税等の額も減少するのであるから、請求人が主張する事情があったとしても、請求人は、本件の各更正の請求において、本件各源泉所得税の額のうち、「正当に徴収された又はされるべき所得税等の額」を超える金額を算出所得税額から控除し、又は還付を受けることはできないとした。

 なお、原処分庁は、請求人の源泉徴収による所得税等の額は原処分庁ではなく源泉徴収義務者が再計算すべきものであり、また、請求人は源泉徴収義務者が発行した訂正後の源泉徴収票又はこれに代わる書類を提出していないから、源泉徴収義務者によって再計算された請求人の給与所得に係る源泉徴収された所得税等の額や所得控除の額を確認することができない旨主張した。

 これに対して裁決は、しかしながら、所得税法第120条第1項第5号の「正当に徴収された又はされるべき所得税等の額」の意味を踏まえると、請求人が本件の各更正の請求に関して提出した資料から正当に徴収されるべき所得税等の額が計算できる場合には、その計算をした所得税等の額を基に確定申告書に記載された納付すべき税額が過大となっているか否かを判断することが相当であるとして、通知処分の一部を取り消している。

(令和5年4月12日裁決)