事前通知をしなかったことに違法なしとして請求棄却

 原処分庁が、その保有する情報及び請求人の確定申告書の記載内容から売上除外を想定し、原始記録及び帳簿書類等の保全のために国税通則法第74条の10《事前通知を要しない場合》に規定する事前通知を要しない場合に該当すると判断したことの可否が争われた事件で、国税不服審判所は、裁量権の逸脱又はその濫用は認められないことから、違法又は不当はないとして、審査請求を棄却した。

 この事案は、原処分庁が、ブロック工事業を営んでいたG社の代表者である審査請求人に対して行った調査に基づき、所得税等及び消費税等の更正処分等をしたところ、請求人が、(1)調査手続きには更正処分等を取り消すべき違法がある、(2)請求人の所得税等の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべき、(3)当初の調査結果の説明の際に認めていた消費税の仕入税額控除を認めるべきなどとして、原処分の全部の取消しを求めたもの。

 請求人は、調査手続通達には、国税通則法に規定する「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」がある場合を具体的に列挙しているが、調査はそのいずれにも該当せず、原処分庁が国税通則法《事前通知を要しない場合》に規定する要件に該当しないにもかかわらず、請求人に対して無予告無通知で調査を行ったことから、原処分を取り消すべき違法又は不当がある旨主張した。

 裁決は、原処分庁が、把握していた情報及び請求人の確定申告書の記載内容から売上除外等が想定され、事前通知をすることで請求人が不正取引の把握を困難にするおそれがあると認められたため事前通知を要しない場合に該当すると判断したものと指摘。その判断に全く事実に基づかず明白に合理性に欠けるなど裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったとは認められないことから、事前通知をしなかったことに違法又は不当はないとした。

 また、請求人は、請求人から国税通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項に規定する調査結果の内容の説明(調査結果説明)を受けることについての同意を受けた代理人税理士に調査結果説明を行えなかったのであれば、原処分庁は、他の代理人税理士に調査結果説明をすべきであり、調査結果説明がないまま行われた原処分には取り消すべき違法がある旨主張した。

 しかし裁決は、原処分庁は、本件税理士に対して相当の回数、調査結果説明をするために連絡を試みており、本件税理士がこれに応じなかったことは、その機会を自ら放棄したものと認められることから、調査結果説明がなかったことについて、原処分の取消事由となる違法があるとは認められないと指摘。以上のことから、審査請求は理由がないから、いずれも棄却するとの判断を示している。

(2024年5月18日裁決)